仮想通貨詐欺

その投資、大丈夫ですか?

「老後2000万円問題」や「コロナ禍」の影響で、「労働の対価による収入」とは別の収入源の確保が大事だと認識しはじめた方が多く、特にこの1年で投資に関する相談が増えた。株でもFXでも仮想通貨でも、あくまで「投資」であるので、レートの逆行による損失は皆ある程度覚悟して臨んでいるはずである。ところがそんな投資初心者を欺き、取引云々ではなく最初からお金を騙し取るようなやり方を行っている者も多いようだ。今回は実際にあった話を紹介していく。手口は最近ネットニュースでよく見るやり方である。

マッチングアプリを不正利用、仮想通貨へ投資持ちかけ 詐欺相次ぐ(2021年10月10日)|BIGLOBEニュース(2021年11月29日時点で記事は削除されていた)

https://news.biglobe.ne.jp/domestic/1010/mai_211010_3434385273.html

マッチングアプリで異性会員が投資を持ちかけてくる

マッチングアプリの異性会員から仮想通貨取引を持ちかけてきたらしい。厄介なのが「相手は外国人」であること。片言の日本語で会話をするので、向こうに不都合と思われる質問をしても、的外れな回答でのらりくらりとかわしてきて意思疎通が難しい。

独自のURLから取引所のアプリのインストールを勧めてくる

alpexアプリ
右がAppStoreからインストールしたもの

相手が海外の仮想通貨取引所のスマートフォンアプリをインストールするよう連絡してくるのだが、App Storeや(Google)Play ストアに公式のアプリがあるにも関わらず、指定のURLからアプリをインストールさせようとする。 この時点で実在する証券会社になりすました偽アプリをインストールさせようとしている可能性が高い。実際に私が被害にあった方に教えてもらったURLからアプリをインストールし、アプリ名のところに表示されている取引所名でAppStoreから検索すると同名のアプリが見つかった。結果として同じ名称のアプリがふたつインストールされたが、アプリ名称(取引所名)は同じでも、アプリのアイコンのデザインが微妙に異なる(使われているロゴマークは同じ)。

取引資金の入金先が個人の銀行口座

取引に必要な資金を入金するよう求められるが、入金先が取引所でもなければ、代行会社でもなく、個人の口座だった。しかも相手は外国人のはずなのに、振込先の名義は日本人と思われる。ちなみに利益を出金した時も振込元の名義も資金入金時の日本人名である。何度か入出金したがいずれも振込先は日本の個人と思われるものであるが、個人名はその都度変わっている。

最初の数回は利益が出ている

うまいことを考えるもので、いきなり利用者のお金を毟り取るようなマネはしない。マッチングアプリで知り合った相手から「何時に〇〇を何枚買う」といった指示がきて、最初の数回の取引は利益が出た。一旦は投入資金も含め全て出金できている。それも入金した翌日には1割から2割の利益を乗せて出金しており、利用者に「これは本物だ」と思わせることに成功している。

入金の金額を増やした後、急に出金できなくなる

「これは本物だ」と思った利用者は思い切って投入金額の桁をひとつ増やして100万円入金した。入金後も取引を繰り返していった結果、画面上では残高は入金額の5倍にまでなっていた。利用者は生計費決済の為、今までと同じ手順で30万円出金申請した。ところがいつもは翌日には振り込まれていたのが、なかなか振り込まれない。

カスタマーサポートはLINEのみ

おかしいなと思った利用者はアプリからカスタマーサポートにチャットで連絡。すると「LINEのサポートアカウントに連絡してくれ」との回答が。このアプリ自体がなりすましであったならば、カスタマーサポートのチャットの相手もおそらくなりすまし。仮想通貨取引所への連絡手段がLINEのみというのはまず考えにくい。多くの取引所はメールはもちろん、ツイッター(twitter)、テレグラム(telegram)等、SNSアカウントも用意されている。事実、なりすましたと思われる取引所の本家サイトにはインスタ(Instagram)等のアカウントも公開されている。

300万円追加入金すれば全額出金できる!?

カスタマーを名乗るLINEアカウントに出金できない旨を伝えると、「取引量が足りないので出金できない」という謎の理由で出金拒否。慌ててマッチングアプリで知り合った相手に連絡すると「(取引量が足りないので)あと300万円入金すれば全額出金できる」と言ってきた。「300万円は用意できない」と伝えると「150万円はこちらで用意するから残り150万円どうにかして集めてくれ」と言ってきた。相手を信じた利用者は150万円工面する為に周りに借金の相談をもちかけ、相談を受けた側が不審に思い私に連絡してきたという次第。その後「250万円こちらで用意したからあと50万円何とか工面してくれ」と連絡があったところで、一旦考えることに。

今度は「税金払え」

カスタマーを名乗るLINEアカウントとの実際のやりとり

後日、最後にもう一度だけ相手を信じるということで追加で振り込んだらしい(金額は不明)。これで出金できるかと思ったら、今度はカスタマーから「残高が10万ドルを超えているから、15%税金を払え」との連絡が。何故取引所に税金を払う必要があるのか意味不明。更に「国際貿易金融機関の最新の通知によると、あなたの利益はあなたの個人所得税を超えています。国際貿易金融機関は抽出利益が10万ドルを超え、ALEX投資取引センターは国際貿易融資に投資家の15%の税収を徴収しなければならないと規定している(原文ママ)」と。国際貿易金融機関?何それ?国際貿易融資?・・・融資?別にお金借りてませんけど。ここで埒があかないと判断し、被害届提出へ。

「アプリが更新されました。インストールして下さい」インストールしてみると驚きの結果が!

右がAppStoreからインストールしたもの

「税金払え」のやりとりをしている間に、急にカスタマーが「アプリが更新されたのでインストールして下さい」と連絡してきた。この報を受けた私がアプリをインストールしてみると・・・なんと今度は違う取引所になりすましていた。これも公式アプリが存在しているので、同じ名前、同じアイコンのデザインのアプリがふたつ並ぶことに(アイコンのロゴの大きさが僅かに違う程度しか違いがない)。

冷静に見ればおかしな点が満載!知らない相手から投資を持ちかけられたら、まずは周りに相談を

今回の件、話を聞いた時に思ったツッコミどころは次の通り。

  • 面識の無い外国人が投資案件を持ってきた
  • 公式アプリがあるのにアプリのダウンロードに独自のURLを指定してくる(しかもドメインが本家と微妙に違う)
  • 資金の入金先が個人の口座(しかも相手は外国人のはずなのに口座名義はどう見ても日本人)
  • 利益の出金時も個人の口座から振り込まれる(しかも入出金相手はその都度名前が変わる)
  • 1日で入金額の2割くらい利益が出ている
  • カスタマーサポートがLINEのみ
  • 実は本人も何をやっているのかイマイチ把握できていない

一番最後は意外と大事で「自分が何をやっているかわからないから、相手の不審な点も気付きにくい」というパターンが多い。現に今回の「あと300万円入金すれば出金できる」と言われて、それは何故かと問うた時「今は800万円のデータノードしかないから、今の残高(500万円)に対して300万円足りない、だからあと300万円振り込んでくれ」と言われて「(知らない言葉が出てきて難しいが)そんなものなのか」と納得してしまっていた。

ビットコインやリップル、エイダ等で実際に「億り人」になった人も周りにちらほらいて、「自分もいけるかもしれない」と安易に考えがちだが、実際仮想通貨の世界は玉石混淆。知らない取引には手を出す前に周りの意見を聞いてみたほうが良い。億り人になった人でも実際に「10個の案件で1個2個当たれば良いほう」だという。現物だろうが信託だろうがマイニングだろうが、「最終的には自己判断」という大原則を忘れてはならない

追加入金しない旨を伝えると、マッチングアプリで知り合った相手はちょっと切れ気味